いよいよ、将棋の羽生善治名人が人工知能と対局する可能性が出てきました。
将棋のファン、羽生名人のファンとしては、見たいような見たくないような複雑な気持ちです。
と言うのも、Googleが開発した「アルファ碁」が、韓国のトップ棋士であるイ・セドル名人を倒しました。
囲碁は将棋より複雑で、人工知能が人に勝つのはまだまだ先のことだろうと見られていましたが、現役のトッププロを倒すというニュースに世界は驚愕しました。人工知能はここまで発達したのかと。
となると、羽生名人vs人工知能の結末は、やはり名人が不利なのではないか?と思わざるを得ません。
ファンとしては、絶対最強棋士の羽生名人の敗北は見たくないなと思います。
羽生名人がどれだけ強い棋士であるか、こちらの記事に書いています。
もちろん対局が決まったわけでもないし、負けると決まったわけでもないし、むろん最強棋士である羽生名人と人工知能の対局を見たい気持ちも隠せません。
もし羽生名人が人工知能に敗北したら、将棋の終わりを意味するのでしょうか?
わたしはそうは思いません。
コンピュータ将棋が発達することは、将棋の面白さをより引き立ててくれると思っています。
一人の将棋ファンとして、コンピュータ将棋について語りたいと思います。
(2016.6.15更新)
プロ棋士とコンピュータ将棋の対局の歴史
2005年頃から、イベントなどの非公式な場でプロ棋士とコンピュータ将棋が対局することがありました。
2007年に「Bonanza」と、現役のタイトルホルダーである渡辺明竜王の公開対局が行われました。
現役の竜王の対局とあって、非常に注目を集めました。結果は渡辺竜王の勝ちでしたが、一歩間違えれば竜王が負けていたという接戦でした。「Bonanza(ボナンザ)」の名が世に轟いたことでしょう。
そして2010年、女流棋士の清水市代女流王位・女流王将と「あから2010」が対局しました。
「あから2010」とは「激指」「GPS将棋」「Bonanza」「YSS」の4種類のソフトからなり、最善手を多数決で決めるシステムです。
本局は、清水女流王位・王将が敗北し、公式の場で初めてプロ棋士が敗北を喫したのでした。
この結果を受け、当時の日本将棋連盟会長である米長邦雄永世棋聖が翌年コンピュータ将棋と対局すると表明し、第一回将棋電王戦が開催されることになりました。
2011年、第一回将棋電王戦にて、米長永世棋聖と世界コンピュータ将棋選手権で優勝した「ボンクラーズ(現・Puella α)」が対局し、米長永世棋聖が負けました。米長永世棋聖は当時68歳。現役を退いて8年が経っていました。
2013年、第二回将棋電王戦では、現役プロ棋士が立ち上がります。
コンピュータ将棋5種と、プロ棋士5名が、それぞれ対局を行う5番勝負が行われました。
その第2局にて、佐藤慎一四段と「ponanza」が対局し、「ponanza」が勝利を収めました。これが公式の場で初めてコンピュータ将棋がプロ棋士を破った瞬間です。
結局、第二回将棋電王戦はプロ棋士の1勝3敗1持将棋*1に終わり、将棋ソフトの強さが際立つ結果となりました。
この時は、事前に対局する将棋ソフトの貸出に制限があり、十分な研究が出来ていない面も指摘されていました。
2014年、第三回将棋電王戦では、将棋ソフトを搭載するハードウェアに制限を加え、また事前に本番で使うソフトとハードを貸し出しするなど、プロ棋士有利な条件のもと開催されました。
ところが、本戦もプロ棋士の1勝4敗と負け越しに終わりました。
2015年、将棋電王戦FINALでは、前年とほとんど同じレギュレーションにて開催されましたが、出場するプロ棋士はコンピュータ将棋に詳しい若手棋士たちでした。
結果は3勝2敗でプロ棋士が初めて勝ち越しました。
対局の中身を見ると、第2局の永瀬拓矢六段vs「Selene」では、「△2七各不成」による王手を放置してしまうという「Selene」のバグをついた勝利でした。後日の検討によれば、すでにこの場面では永瀬六段の優勢とのことでした。
第5局の阿久津主税八段vs「AWAKE」では、阿久津八段がプロ棋戦は指されることのないハメ手を採用し、「AWAKE」を不利な局面に持ち込んで、わずか21手で投了という結果になりました。
プロ棋士がなんとしても勝つ!という執念のような研究をして、初めて勝つことが出来る将棋ソフトの強さを改めて思い知らせた一戦でした。
そして、今年2016年は電王戦あらため、第1期叡王戦が現在進行形で行われています。山崎隆之八段と「ponanza」が対局しています。第1局は「ponanza」の勝利でした。
コンピュータ将棋は、すでにプロ棋士より強い
将棋電王戦を戦った棋士である永瀬六段や、村山慈明七段いわく「練習対局での通算勝率は1〜2割程度」とのことで、プロが普通にやったら10回に1〜2回勝てるかどうかです。
永瀬六段も村山七段も普通に強いプロです。永瀬六段は2016年の棋聖戦予選を勝ち抜き、羽生棋聖との5番勝負が決まっています。村山七段は2015年度NHK将棋トーナメント覇者でもあります。
これだけ強いプロを相手に、羽生名人や渡辺明竜王などの超トッププロが10回やって8〜9回勝てるかと言われると、微妙なところです。
しかし、将棋ソフトは10回中8〜9回くらいは勝ちます。
これは将棋ソフトがすでにプロ棋士の実力を上回っていることを示しているのではないでしょうか。
新しい将棋の勉強法の確立
棋力向上に必要なことは、簡単に言うと定跡の研究(序盤強化)・手筋の研究(中盤強化)・詰め将棋を解く(終盤強化)でしょう。
そして何よりも実戦経験が大事ですし、最も大切なのは対局後の感想戦だとも言われています。
ネット将棋の発達により、アマチュアでも実戦経験が簡単に、より多く積めるようになりました。
これらに加えて、将棋ソフトによる棋譜の検討が出来るようになったことが、非常に大きいです。自分の指した手の何が悪かったのか、どう指せば良かったのかが一人で出来るようになったからです。今までは一人では不可能ですし、ネット将棋でもなかなか細かい感想戦に付き合ってくれる対局者は少なかったです。
実際、プロ棋士も自分の棋譜の検討に将棋ソフトを使っているようです。
(参考:「将棋 女流 香川愛生が電脳戦の解説に登場!!」https://youtu.be/Rm7BKPFr2DI?t=7m40s)
このような将棋ソフトは、無料でダウンロード出来て、手持ちのパソコンで動かせるようになっています。
2014年世界コンピュータ将棋選手権を制した「Apery」をはじめ、「Bonanza」「GPS将棋」などは無料公開されています。
これらがアマチュアの方々の棋力向上に大いに役立っているのです。
千田翔太五段の衝撃
千田翔太五段は、1994年4月生まれの22歳のプロ棋士です。プロ入りは18歳の時でした。現役プロの中で最もコンピュータ将棋に詳しいと言われています。
先ほどの村山七段が2015年度NHK将棋トーナメントの決勝戦で、千田五段と対局しています。
千田五段は「私は普通の方法である程度強くなっても、あまり意味がないと思っている。先人の追従をして強くなっても、よい棋力向上法を発見するわけではない。」と発言*2し、コンピュータ将棋を自身の棋力向上に役立てているのです。
渡辺明竜王が「Bonanza」に苦戦したのが2007年、千田五段は当時13歳です。
恐らくこの頃から、コンピュータ将棋の研究をして、自身の棋力を上げ、プロ棋士へ駆け上がっていったのではないかと思います。
この千田五段のアプローチは、やろうと思えば誰にでも出来ることです。
むろん単純な話ではないでしょうし、わたしのようなヘボ将棋指しの推論に過ぎません。
しかし、千田五段の活躍を見て、将棋ソフトには夢があるなと思ったことも事実です。
ある意味、将棋ソフトを研究し、将棋ソフトで検討することは、一流のメジャーリーガーであるイチローから直接野球を教えてもらえるような話だと思います。
時速230キロの速球を投げ込むピッチングマシンが開発されても、野球は引き続き面白いように、コンピュータ将棋が発達しようがしまいが、将棋は面白いです。
より強くなりやすい環境が整えば整うほど、将棋に参入しやすくなり、プレイヤーは増え、将棋界はより発展していくことでしょう。
わたしも一人の将棋ファンとして、より将棋が強くなりたいですし、将棋界の更なる発展を期待したいです。
「NHKスペシャル 天使か悪魔か 羽生善治 人工知能を探る」が5/15(日)に放送 (2016.5.12 追記)
コンピュータ将棋のみならず、人工知能の最前線に迫る内容です。
羽生名人がナビゲーターを務めます。
こちらの放送も非常に楽しみですね!
番組を視聴した感想を書きました!
※棋士の肩書は全て当時のものです。
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