強風が吹き荒れたステージで、終盤にペーター・サガン(ティンコフ)とクリス・フルーム(チームスカイ)が奇襲とも言えるアタックを成功させ、サガンが逃げ切り勝利を果たしました。
今日の逃げは2名
リー・ハワード(オリカ・バイクエクスチェンジ)
アルトゥール・ヴィショ(FDJ)
タイム差は2〜3分以内をキープしながらレースが進行します。
完全にスプリンター向けのステージであり、逃げの人数も2名と絞られていることから、今日は集団スプリント勝負になると思っていました。
山火事発生、コースへの影響はなし
進行方向にて、わりと大きめな山火事が発生したようです。
解説の永井孝樹さんによると、ヨーロッパでは暑さによる自然発火的な山火事が起きることは多いそうです。放火ではないそうです。
残り91km地点でティンコフのペースアップ
カーブが続く区間で、ティンコフがペースアップをしてきました。
風も強く吹いているため、集団を分断させようという意図です。
この動きにはエティックス・クイックステップとチームスカイも協調してペースアップを図ります。
残り74km地点で、トレック・セガフレードが先頭牽引に参加します。
元TT世界チャンピオンのファビアン・カンチェラーラ(トレック・セガフレード)による強烈なペースアップによって、集団は分裂し、エシュロンが形成されます。
↑横風によって斜めにまとまっているグループがエシュロンと呼ばれる
アスタナ、チームスカイ、ティンコフなどスプリンターチームではないチームが集団牽引を積極的に行って集団を分裂させて行きます。
逃げている二人とのタイム差も30秒を切ってきて、吸収しようかというスピードです。
ですが、タイム差20秒ほどに縮まった状態をキープしながら進んだため、集団のスピードは緩みます。
分断され遅れた選手たちも、メイン集団に復帰しています。
横風が強く吹く残り62km地点で今度はチームスカイによるペースアップで、集団が長く伸びます。
そうして、残り61km地点で逃げ集団を吸収します。
するとチームスカイ、ティンコフ、ロットNLユンボが協力してペースアップして行きます。
↑長く一列棒状に伸びた集団を牽くチームスカイ
マイヨ・ジョーヌを着るクリス・フルーム(チームスカイ)自らローテーションに加わるほどの本気の牽きです。
https://twitter.com/letourdata/status/753226969030987776
時折時速60キロに達するハイスピードで集団を牽いていたようです。
中間スプリントはキッテルが先着
1位、マルセル・キッテル(エティックス・クイックステップ)
2位、ペーター・サガン(ティンコフ)
3位、マーク・カヴェンディッシュ(ディメンションデータ)
という結果でした。
アンドレ・グライペル(ロット・ソウダル)は参加せず、マイケル・マシューズ(オリカ・バイクエクスチェンジ)は、集団分裂によって後方集団に取り残されていたようです。
集団は落ち着き、ゴールスプリントに向けて
↑モンペリエ名物であるフラミンゴの集団飛行
チームスカイのペースアップによって、残り12km地点で再び集団がバラけ始めます。
このタイミングで、なんとペーター・サガン(ティンコフ)とクリス・フルーム(チームスカイ)がアタックします!!
それぞれ、ボドナール(ティンコフ)とゲラント・トーマス(チームスカイ)をお供に連れてのアタックです。
サガンはステージ優勝を狙って、フルームは他の総合勢に差をつけるため、両者の利害が一致したため、ティンコフとスカイが協調してローテーション回しながら差をつけます。
ボドナールは元ポーランドTTチャンピオン、トーマスもTT力が高く、4名の独走力はちょっとした集団に匹敵するくらい強力です。
スプリンターチーム、総合狙いのチームともに4人を行かせてはならないのですが、メイン集団のペースは上がりません。
特にナイロ・キンタナ(モビスター)の周りには、アシストが残っていないという状況です。
残り5kmを切って、逃げの4名とメイン集団は20秒差あります。
メイン集団では、ようやく追走体制が整って、カチューシャ、エティックス、モビスター、ロット・ソウダル、ジャイアント・アルペシン、ロットNLユンボなどが全力で追いかけます。
残り2kmを切って、タイム差は16〜17秒とわずかに縮まっています。
ロット・ソウダル、カチューシャ、ロットNLユンボが猛烈に牽引していますが、逃げている4名の独走力があまりにも強くてなかなか縮まりません。
残り1kmを切っても、メイン集団は現れません。
そうして、ゴール前スプリント勝負となり、サガンが先頭でゴールしました!
フルームは2位で、ボーナスタイム6秒獲得です。
メイン集団はフルームたちに6秒遅れてフィニッシュしました。
つまり、フルームは総合ライバルたちに12秒差をつけることに成功しました。
#MaillotJaune Froome's average speed went up to 55.25 km/h in the final 12km, to buy 12" in GC.#TDFdata #TDF2016 pic.twitter.com/y6hhVdbJoz
— letourdata (@letourdata) 2016年7月13日
フルームは、ラスト12kmを平均時速55キロで走行していたようです。
サガンは今大会2勝目
勝利後のインタビューでは『クレイジーウインド』と連発していて、相当な強風ステージだったようです。
また、アタックはまさか成功するとは思っていなかったようです。
マイヨ・ヴェールも2位以下にさらにポイント差をつける結果となりました。
会心のアタックを成功させ、満足げな表情を浮かべるフルームです。
度重なるペースアップによって、ほぼ毎回後方集団に取り残されていましたが、表情は明るめで安心しました。
明日はフランス革命記念日なので、ティボー・ピノ(FDJ)は気合いを入れて臨むステージだと思います。
アダム・イェーツ(オリカ・バイクエクスチェンジ)は第7ステージのフラムルージュ落下でクラッシュして負ったアゴの傷が、かなり癒えてきているようです。
敢闘賞は最初に逃げていたヴィショです。レース中に敢闘賞は発表されるので、仕方ないですが、今日の敢闘賞は間違いなくフルームでしょう。
あきさね的チェックポイント
チームスカイの戦略が素晴らしすぎる
第8ステージの1級山岳ペイルスールド峠を登った直後のダウンヒルでのアタックといい、王者スカイは奇襲とも言える大胆な作戦を実行して来ます。
横風区間での集団分断作戦も、後方に総合ライバルが取り残されている場合に効果がある作戦であり、今日のステージでは事前に風が強いことは各チームとも警戒していて、総合系の選手はほとんど集団前方に位置取っていました。
スプリンターチームが、ライバルスプリンターチームのアシストを削る意図で実行するなら分かるのですが、総合系が分断作戦を実行する意味と効果はあまりないのでは?とずっと疑問に思っていました。
しかし、スカイは集団分裂を何度も試みて、総合ライバルチームのアシストを削ることが狙いだったようです。
次にスカイが秘めていた作戦は、『誰かがアタックしたら、トーマスとフルームでアタックする』というものでしょう。
ヴィショとハワードの逃げ2人を中盤で吸収してからも、プロトンをずっとコントロールしていたこと辻褄が合います。(本来ならスプリント勝負に持ち込みたいスプリンターチームが集団コントロールするべきところなので)
サガンのアタックにフルームが反応して、後からゲラント・トーマスが追いついて来たことから、どのタイミングでアタックするかはフルームに判断が委ねられていたように見えます。
そうして、スカイの狙い通りに、メイン集団ではサガン・フルームを追える力を持ったアシスト選手が集団後方にいたり、脱落しているなどで、まともな追走体勢が整うまで4〜5kmはかかりました。
モビスターに至っては、フルームがアタックした時点では、キンタナの周囲に誰もアシストがいない状況で、キンタナは何も出来ませんでした。
失敗したら、ただ単に無駄足を使ってしまう結果になりかねない、リスクのある作戦を立案し、実行するスカイの監督のクリエイティビティに脱帽です。
王者なのに、大胆な奇襲を仕掛けるスカイは本当に強いです。一体、どこに隙があると言うのでしょうか。
明日の第12ステージは”悪魔の山”モン・ヴァントゥへの頂上ゴール
フランス革命記念日に、モン・ヴァントゥへゴールするステージ構成となっています。
しかし、モン・ヴァントゥ山頂は非常に激しい風が吹き荒れているとのことで、頂上まで行かず、残り6km地点のシャレーレイナールにゴールすることになりました。
⚠ Stage 12 is shorten due to weather conditions at the top of Mont Ventoux, the finish will be at Chalet Reynard ⚠ pic.twitter.com/BcSweLJ5eD
— Tour de France™ (@LeTour) 2016年7月13日
尚更、フランス人アタッカーたちは、逃げ切り勝利を狙って間違いなく積極的に動いてくると思われます。
厳しい登りが6km短くなったことは、キンタナにとっては悲報です。ですが、それでも明日のステージは総合争いにおいて、非常に重要なポイントとなることは間違いありません!
フルームに死角は全くありませんが、唯一未知数なのがキンタナのアタック力です。
今大会では、いまだにキンタナが仕掛けるシーンは一度も見せていません。
このモン・ヴァントゥでは、フルームに差をつけるべく、キンタナが動いてくると思われます。
恒例の当たらないステージ優勝予想ですが、フランス革命記念日にフランス人クライマーのティボー・ピノが逃げ切り勝利をすると見せかけて、何だかんだで好調のルイ・コスタ(ランプレ・メリダ)が勝つと予想します!
ここまでのステージ展開を見ていても、明日のステージは逃げ切りの展開になると思います。
マイヨ・アポワルージュを狙っているピノ、ラファル・マイカ(ティンコフ)、ルイ・コスタ、トム・ドゥムラン(ジャイアント・アルペシン)あたりは有力候補ではないかと思います。
第9ステージの超級山岳アンドラ・アルカリスよりも遥かに厳しいモン・ヴァントゥの登りでは、TTスペシャリスト寄りのドゥムランは厳しいかなと思います。
マイカは今日のレースで落車していたこともあり、体調面が心配です。
総合争いでは、何と言ってもキンタナに注目です!
ここでキンタナが動かなかったら、フルームの総合優勝は間違いないと言っていいでしょう。それくらいキンタナにとっては、限られた攻撃のチャンスです。
フランス人選手のロメン・バルデ(AG2R)と、あまり調子は良さそうではないですが、ワレン・バルギル(ジャイアント・アルペシン)にも期待したいところです。
明日第12ステージは、スカパー・J Sportsで20:55から中継開始予定です。
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