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あきさねゆうの荻窪サイクルヒット

アラサー男子がブロンプトン・ロードバイク・プロ野球・メジャーリーグ・ラーメンネタ中心にお送りします。

ゴールデングラブ賞の受賞者を見て、『守備のうまさ』とは何か考える。

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2016年のゴールデングラブ賞が発表されました。

※参考:第45回 三井ゴールデン・グラブ賞

毎年恒例と言えば恒例なのですが、ゴールデングラブ賞の選考基準が記者による投票ということで、晩年の金本知憲に投票する記者がいたり、昨年の鳥谷敬が坂本勇人を抑えて受賞したりと、様々な反響(主に疑問の声)が起きます。

かく言うわたしも、疑問の声を上げたい一人ですが、完全に否定することも出来ないと考えています。

守備のうまさとは一体何なのか、わたしの考えを書きたいと思います。

守備のうまさとは、何を持って表すか

『あの選手はファインプレーが多い』
『エラーが少ない選手』
『刺殺・補殺が多い選手』

などなど、思い浮かべる方が多いのではないかと思います。

もちろん、これらの要素も重要ではありますが、野球というスポーツの本質は『相手より1点でも多く取ること』すなわち、『自チームの失点を1点でも少なくすること』が大切なことです。

わたしは、守備のうまさとは『どれだけチームの失点を食い止めたか』に最も重きを置くべきだと考えています。

『どれだけチームの失点を食い止めたか』を表す指標としては「ファインプレーの多さ(ダイビングキャッチなど)」「エラー数」「刺殺数」「補殺数」も関係しますが、加えて「守備範囲」「肩の強さ」「送球の正確性」「打球の読み」なども重要です。

しかし、数字だけでは測ることの出来ない影響が存在することも事実です。

守備によって、チーム全体を鼓舞する、勢いをつけるなど、非数字的な要素です。一つのファインプレーによって勢いづいたチームが、得点を重ねることだってあると思います。

これは守備によって『1点でも多く取ること』に貢献していると言えましょう。

目に見える『失点を防ぐ』要素だけでなく、目に見えない『得点を増やす』要素両方の視点から、守備を考えたいと思います。

ZR(ゾーンレーティング)という考え方

まずは『失点を防ぐ』数字の話からです。

例として外野手の守備について書きます。

左中間や右中間を抜けるような打球を、捕球することが出来れば『失点を防ぐこと』に直結する素晴らしいプレーだと言えましょう。

もし抜けていたら、二塁打・三塁打と長打になる可能性が高く、失点の可能性が高まります。直接捕球出来ずとも、バウンドした打球をフェンスまで届かせないよう回り込んで捕球することも、二塁打・三塁打の可能性をシングルヒットに留めることが出来るという意味では重要なプレーです。

こうした数字は、「エラー数」「刺殺」「補殺」からは見えにくいです。

そこで、ZRという考え方が登場します。

フィールド内を一定のゾーンに区切って、それぞれのゾーンでの打球処理数を調べるというものです。

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参考:日本版Ultimate Zone Rating(UZR)プロトタイプ

端的に言うなら、難しい打球をたくさん処理した選手は守備がうまいんじゃないの?という点を数値化したものです。

ZRの考え方に、打球の処理難易度(速い打球なのか、高いフライだったのか、などの違い)、失策数、併殺能力、肩の影響などを加えたUZR(アルティメットゾーンレーティング)という指標を用いて測ることが一般的となっています。

難しそうに打球を捕ることと、難しい打球を捕ることは違う

ダイビングキャッチのような派手なプレーは、一般的にファインプレーと称賛されます。

例えば、センターがあらかじめ右中間寄りにポジショニングしていた時に、左中間に打球が飛んだとしましょう。

センターが打球を追って、ギリギリ届かなそうだ、というタイミングでダイビングキャッチして、見事捕球しましたが、本来のセンターの定位置から打球を追えば難なく捕球出来る打球でした。

けれども、一般的にはファインプレーだと称賛されるでしょう。

他にも打球判断が遅く、一歩目の踏み出しが遅い選手がダイビングキャッチして捕球した打球は、打球判断の良い選手は難なく正面で捕球出来ることでしょう。

難しそうに打球を捕ることと、難しい打球を捕ることは違います。

UZRが高い選手は左中間・右中間へのダイビングキャッチや、一二塁間・二遊間・三遊間を抜ける打球へのダイビングキャッチが少ない印象を受けます。

打球予測に優れ、一歩目の走り出しが速く、捕球ポイントまで正確に一直線に入り込むことが出来るため、ダイビングキャッチせずとも余裕を持ってボールを捌くことが可能だからでしょう。

真のファインプレーとは、難しい打球を難なく捌くことにあると、わたしは考えます。

一般的なファインプレーを連発する選手のUZRが高くない例は、よく見かけられます。(※ダイビングキャッチが悪いとは一言も言ってませんからね。)

外野手の肩の強さをどう評価するか

外野手の補殺と言えば、タッチアップを刺す、シングルヒットで2塁から本塁を狙った選手を刺す、などのプレーの記録数を表します。

補殺数が多い=肩が強いと誤解されがちですが、肩が弱い選手が捕球したからこそ先の塁を狙うプレーが多く生まれます。

プレーの数が多ければ、必然と補殺数は多くなると言えましょう。逆に肩が強い選手が捕球した場合、タッチアップや先の塁への進塁を試みない場合があります。

肩の強さが抑止力として働く以上、単体で肩の強さを表す指標が存在しません。強いて言えば、送球のスピードや、送球の正確性を数値化することが出来れば肩の強さ単体の数値化も可能でしょうが。

現在では、その選手が守備についたことで、失点が増えたかどうかが、肩の強さを間接的に測定する手段となっています。UZRには、この肩の強さを考慮して数字が算出されています。

UZRの高い選手がゴールデングラブ賞を受賞していない現実をどう考えるか

アメリカでは、監督投票による『ゴールドグラブ賞』と、UZRなどのセイバー指標に基づき、セイバーメトリクスの専門家が選出する『フィールディングバイブル賞』の2つの守備タイトルがあります。

2016年の受賞者を見比べてみると、二塁手のゴールドグラブ賞にはア・リーグからはイアン・キンズラー(TEX)、ナ・リーグからはジョー・パニック(SF)が選出されていますが、フィールディングバイブル賞はダスティン・ペドロイア(BOS)が選ばれています。

遊撃手のゴールドグラブ賞にはア・リーグからはフランシスコ・リンドーア(CLE)、ナ・リーグからはブランドン・クロフォード(SF)が選ばれ、フィールディングバイブル賞はアンドレルトン・シモンズ(LAA)が選ばれています。

フィールディングバイブル賞は、UZR/150(150試合換算のUZR)とDRS(守備防御点)を高く評価している傾向にあります。

現場で実際に対戦した監督が選ぶ選手と、セイバーが選ぶ選手で、特に二遊間の選手の評価が異なることが興味深いなと思います。

同様の現象は日本プロ野球でも起きていて、2016年のゴールデングラブ賞にはパ・リーグは二塁・藤田一也(楽天)、遊撃・今宮健太(ソフトバンク)が受賞しました。

しかし、UZRリーグトップの選手は、二塁・浅村栄斗(西武)、遊撃・中島卓也(日本ハム)でした。なおUZR/1000(1000イニング換算のUZR)では遊撃手は安達了一(オリックス)がトップです。

藤田と浅村のプレーを見比べてみる

・楽天藤田の好プレー集2016前半

www.youtube.com

・浅村栄斗 2016年 好プレー集

www.youtube.com

何度も何度も見比べてほしいです。

わたしが見た限りでは、

・浅村の方が速い打球をより深い守備位置で処理している
・浅村の方が肩が強い
・藤田の方がショートバウンドの打球処理がうまい
・藤田の方がグラブトススピードが速い
・藤田の方がカッコいい*1

という印象を受けました。

浅村の方が、圧倒的に難しい打球を深いところで処理していると見えましたが、ここはなかなか分かりづらい部分です。一般的に両者とも非常に守備がうまいように見えるのではないでしょうか。

しかしUZRは、藤田が-7.5であるのに対して、浅村は+8.0と大きく乖離しています。

だからと言って、藤田は守備が下手でゴールデングラブ賞はふさわしくないとは思いません。

2013年、24勝0敗の田中将大の発言が本質を捉えていると思う

無傷の24連勝を達成した田中将大が『藤田さんの守備がなければ、24連勝は無かった』と断言するほど、2013年シーズンの藤田の守備は際立っていました。

UZRもリーグトップの+8.9を記録しています。UZRは相対的な指標なので、リーグ全体の同じポジションの選手の守備が良い選手が多ければ多いほど、数字が上がりづらくなります。

ちなみに2013年シーズンの他の二塁手のUZRを見てみると、

2位、片岡治大(西武) +4.6
3位、中島卓也(日本ハム) +4.5
4位、本多雄一(ソフトバンク) +1.1

という感じです。この数字をUZR/1000で並べ替えると

1位、藤田一也 +8.7
2位、中島卓也 +8.6
3位、片岡治大 +8.0
4位、本多雄一 +1.1

となり、藤田・中島・片岡の守備は同程度のレベルであると言えましょう。

この年のゴールデングラブ賞の二塁手の得票数は

1位、藤田一也 202票
2位、本多雄一 19票
・・・
4位、中島卓也 2票

という結果でした。片岡は何故か有資格者ではありませんでしたが、中島にはたったの2票しか入っていません。

だから、記者投票はおかしいと言うつもりは一切なくて、藤田と同レベルの守備を中島と片岡がしていたとしても、傍目には伝わりにくいという事実が重要だと考えています。

藤田の守備は堅実であるが、派手さが目立つ

ショートバウンドに突っ込んで捕球したり、ジャンピングスローしたりと、藤田の守備には一種の派手さ・鮮やかさが目立ちます。

誰が見ても『ファインプレー!!』と言いたくなる守備が、藤田には多いです。

このようなファインプレーが発生すると、球場全体が盛り上がりますし、投手も『助かった!!』と気持ちが高揚することだってあるでしょう。抽象的な言葉で表現すると、『勢い』が生まれます。

『勢い』を数値化することは難しいのですが、確実にチーム全体のプレーに影響する要素であり無視することは出来ません。

田中将大の『藤田さんの守備がなければ…』という発言は、セイバーメトリクスの観点では年間9点ほどしか失点を防いでいないと言えますが、24連勝を果たし、チームを日本一に導いた勢いは、藤田の守備が生んだと言っても過言ではありません。9失点防いだ以上の価値があったことは言うまでもありません。

全く同じことが、今宮健太と安達了一にも言えます。今宮のプレーは派手で守備範囲も広いと思われがちですが、安達の守備範囲の広さ・堅実性・送球の正確さは絶品です。今年のソフトバンクは後半に失速してしまいましたが、昨年のソフトバンクの勢いを生んだ要素の一つは今宮の派手な守備にあったと言えると思います。

・今宮健太の広すぎる守備範囲

www.youtube.com

・オリックス 安達了一 好守備まとめ

www.youtube.com

派手なプレーが高く評価され、ゴールデングラブ賞を受賞することに、わたしは反対ではありません。派手なプレーが味方を鼓舞する要素が、チームを勝ちに導いたという視点は重要だと思うからです。

ただ、安達や浅村の守備を見ていると、日本絵画のような伝統的な美しさを感じます。技術的なことはわたしには、あまり分かりませんが、野球少年が真似をするなら安達や浅村の守備を真似する方が、恐らく守備が上達するのではないかと思います。

そして、安達や浅村のような守備力の高さは、一見地味であるため記者やファンには伝わりづらいものがあると思います。少なくとも2013年の中島卓也の守備力は、藤田一也の守備力に匹敵していたなんて、ほとんどの人は分からなかったに違いありません。

だからこそ、日本にもアメリカのフィールディングバイブル賞のようなセイバーの観点から受賞者を決めるタイトルがあってもいいのではないかと思うのです。中島のような選手に、最初にスポットライトを当てる意味でも、価値ある視点だと思います。


最後に余談ですが、セイバーメトリクス的な視点で内野守備を楽しむなら、テレビ観戦より圧倒的に現地観戦がおすすめです。

打球への一歩目の飛び出しや、打者ごとに細かく守備位置を変えている様子は、テレビではなかなか分かりづらいものがあります。安達や浅村のように、何気ない内野ゴロに真のファインプレーが詰まっていることが多いからです。

わたしは、来年は安達と浅村の守備を見るために、オリックスvs西武戦を見に行きたいと思いました笑

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守備に関するセイバーメトリクスの考え方は、この本から多大な影響を受けました。ビッグデータベースボールは、新しい指標の使い方だけでなく、それらをどうやって現場に落とし込むかというアナログな部分まで言及されている名書です。デジタルに戦力を揃えるだけでは勝てない理由もよく分かりました。

*1:わたしは浅村の堅実な守備の方が好みです。動画の福浦が打った強い打球を、一二塁間の深いところで捌くところとか非常に好きです笑