あきさねゆうの荻窪サイクルヒット

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メジャーリーグは、なぜ移籍が多いのか?MLBの年俸事情に答えあり

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MLBでは、移籍が活発に行われています。

超主力選手のトレードも日常茶飯事、1対4みたいな大型トレードも1年に1回くらいあります。

FAによる移籍も活発に行われており、昨シーズンオフにはロサンゼルス・ドジャースに主力投手だったザック・グレインキー*1が、アリゾナ・ダイヤモンドバックスと6年2億650万ドル(約230億円)の超大型契約を結びました。
1年あたりの平均年俸3442万ドル(約38億円)は、MLB史上最高額となりました。

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↑ドジャースから同地区のダイヤモンドバックスに移籍して、話題となったザック・グレインキー

シアトル・マリナーズはノンテンダーFAとなっていた元カブスのライアン・クック*2と1年110万ドル(約1.2億円)で契約を結びました。

このような景気のいいFA移籍から、少額のノンテンダーFAの移籍など、MLBではオフシーズンの移籍はマイナーも含めれば軽く100件以上は発生しています。新人選手の入団は数に含めずともです。

日本では、FA移籍は年間に8件あれば多い方で、昨シーズンオフは4件のみでした。*3

トレードは昨オフから本日までに計3件のみです。*4MLBでのトレード件数は数えきれません。

MLBとの球団数の差を考慮しても、FAやトレードによる移籍発生件数は5倍くらいは差があります。

なぜ、メジャーリーグではこれほど移籍が活発なのでしょうか?

ヒントはMLBの年俸システムにあります。

その前にMLBの「ロースター」という仕組みを解説

ロースターと呼ばれる選手登録ルールがあります。

ロースターには「25人枠」と「40人枠」があります。

「25人枠」はアクティブロースターと呼びます。

「40人枠」に登録された選手はメジャー契約を結ぶことになります。

その「40人枠」の中で「25人枠」に登録された選手がメジャーリーグの試合に出場することができます。なおMLBのベンチ入りメンバーは25名です。

よってこの「25人枠」に登録された選手で、基本的にシーズンを戦うことになります。*5

25人の編成の内訳はおよそ以下のとおりです。

  • 先発投手5名
  • リリーフ投手7名
  • 野手13名

つまり、DHを採用しているア・リーグでは9名の野手が先発しているため、控え野手は4名しかいません。

4名の内訳は捕手1名・内野1名・外野1名・ユーティリティ1名のようなバランスで構成されていることが多いです。

そのため、選手1人に要求される役割が多いため、MLBには両打ちの選手や複数ポジションを守れる選手が多いのです。

例えばカブスの川崎宗則は内野全ポジションを守ることが出来る上に足が速いため、内野のユーティリティプレーヤー兼代走として重宝されるのです。
マーリンズのイチローは外野の全ポジションを平均以上の守備力で守れる上に足が速いため、出場機会が少なくともマーリンズにとっては超貴重なユーティリティプレーヤーなのです。

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↑今年10月で43歳になるイチローだが、走守は未だにメジャートップレベルを維持

また「40人枠」に登録され、「25人枠」に登録されていない選手は、マイナーの試合に出場することになります。

そして「25人枠」の選手が怪我や不調で「25人枠」から外れる際に、「40人枠」から「25人枠」に昇格ということがあり得ます。

「25人枠」から外すためには、以下の方法があります。

  • 故障者リストへの登録

15日リストと60日リストがある。15日リストは「25人枠」登録選手であっても、25人の計算から外すことが可能。60日リストは「25人枠」「40人枠」どちらの人数計算から外すことが出来るので、故障した選手の代わりに「40人枠」「25人枠」に選手登録が可能となる。
また、リハビリを目的として野手は最大20日間、投手は最大30日間マイナーの試合に出場することが出来る。

なので、成績が悪化した選手を故障ということで故障者リストに登録してマイナーの試合に出させて調整するという裏ワザがたまに利用されています。

  • 忌引リスト

最大7試合、最短3試合、欠場することが出来る。その間、「40人枠」の選手を「25人枠」に登録することが可能。

  • 育休リスト

当時ブルワーズに所属していた青木宣親も育休リストを使った選手の一人です。故障者リストの短期版のようなもので、

  • マイナー降格

単純に「25人枠」から外すことです。
ただし、これにはいくつか条件があります。

「マイナーオプション」という制度があり、初めて「25人枠」に登録されるとマイナーオプションが3シーズン分付与されます。

「25人枠」から外れると、マイナーオプションが発動し、そのシーズン中は自由に「25人枠」と「40人枠」を行き来できます。

日本風に言うと、1軍と2軍を自由に行き来できて、再登録に10日というルールもないため、2試合出てマイナー降格、また2試合後にメジャー昇格ということもあり得ます。

ブルージェイズ時代の川崎が度々メジャー昇格していたのはマイナーオプションがあったためです。

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↑早速、カブスでメジャー昇格を果たし、数日でマイナー降格した川崎宗則。だが、それが川崎に与えられた役割なのである。

このマイナーオプションが3シーズン分消費されると、自由に「25人枠」と「40人枠」を行き来することは出来ません。

再度マイナーオプションを発動させるためには、一度ウェイバー公示する必要があります。ウェイバー公示された選手は全球団が自由に獲得することが出来るため、マイナーオプションの切れたメジャーで十分通用する選手をマイナー降格させる際には、この点を注意せねばなりません。

そのため簡単にはマイナーに落とせないため、MLBでは5勝17敗で防御率6点台みたいな投手や打率2割前後に低迷しているような選手でも、一年を通じてアクティブロースターに登録されているということも起きるのです。

ひどすぎる場合やそもそも放出してもリスクの少ない選手は、アクティブロースターから外すために、ウェイバー公示にかけて移籍というケースが発生し得るのです。

日本風に言うと、巨人・内海を二軍で調整させようとすると、マイナーオプションが無いため、ウェイバー公示をかけないといけなくて、先発の不足しているロッテあたりに拾われる、みたいなことが起きるのがメジャーです。*6

また、「40人枠」から外す際に、いわゆる「事実上の戦力外通告」というものがなされます。

MLBでは「ノンテンダーFA」略して「DFA」と言われます。

新しい選手を「40人枠」に補充する際に、DFAすることもあれば、故障者リストに登録していた選手が復帰するので、代替で登録していた選手を外すためにDFAするということが発生します。

よって、純粋な戦力外通告ではなく、チーム編成上仕方がないケースもあるので、日本風の「戦力外通告」とは意味合いが異なります。

さてDFAを受けた選手はどうなるかと言うと、ウェイバー公示にかけられると、トレードされます。
ただし、トレードの場合はメジャー在籍10年以上かつ当該球団在籍5年以上の場合は選手側が拒否することが出来ます。

ウェイバー公示して獲得球団が現れなかった場合は、マイナー契約または自由契約することが出来ます。これを選手側は拒否することが基本出来ません。

ただし、一度DFAによる契約解除経験がある選手、またはメジャー在籍5年以上の選手はマイナー契約を拒否して自由契約を選ぶことが出来ます。

なのでMLBでは、マイナー球団による受け皿が大きいので、ある程度メジャー経験がある選手であれば、マイナーに所属し続けて現役を続けることが可能です。

以前、オリックスに所属していたこともあるマイク・ヘスマンは、メジャーでの実績はあまりありませんが、マイナーでは打ち続けて、マイナーでの通算433本塁打はマイナー通算最多記録となっています。

MLBのFA権と年俸調停システムについて

MLBではメジャー在籍6年、言い換えるとアクティブロースター登録期間が6年*7に達するとFA権を取得できます。

メジャー契約の最低年俸は50万ドル(約5500万円)で、どんなスター選手も50万ドルからスタートします。

3年間は50万ドルのままで、メジャー4年目からは年俸調停権を獲得出来ます。

なので、どれだけ活躍しても3年目までは50万ドルで4年目から年俸が跳ね上がって行くことになります。

ボストン・レッドソックスの田沢純一は昨オフ年俸調停権を獲得し、田沢は415万ドルを希望したのに対し、球団提示は270万ドルで、年俸調停の公聴会に突入するかと思われましたが、両者が妥協して、337万5000ドルで契約締結しました。

また、マイアミ・マーリンズのジャンカルロ・スタントンは、調停2年目となる2014年オフに13年総額3億2500万ドルの超大型契約*8を締結しました。

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↑ホームランの飛距離全米No.1のジャンカルロ・スタントンの腕筋がヤバい

そうして、在籍6年を経過すると晴れてフリーエージェントとなって、全球団と交渉することが可能となるのです。

日本では、高卒選手が8年で国内FA権、大卒・社会人卒選手が7年で国内FA権を取得可能となっていて、メジャーの方が期間が短いことも移籍の増加の一因となっています。

メジャー選手の年俸が高騰するのは、巨額の放映権が影響

MLBの全国放送の放映権はMLB機構が一括で管理しています。

これに対してローカル放送は各球団が直接ローカル局と契約することになります。

例えば、ロサンゼルス・ドジャースの1年間の放映権は3.2億ドルと言われています。

ドジャースの選手年俸の総合計は2.7億ドルなので、放映権だけで選手を雇える計算です。

ドジャースには、クレイトン・カーショウ(3500万ドル)、エイドリアン・ゴンザレス(2200万ドル)、カール・クロフォード(2100万ドル)、スコット・カズミアー(1200万ドル)、ケンリー・ジャンセン(1100万ドル)、ハウィー・ケンドリック(1000万ドル)と、1000万ドル以上プレーヤーがゴロゴロいます。

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↑毎年安定した成績を残すドジャースの四番打者、エイドリアン・ゴンザレス

人気のある球団は巨額の放映権を元に、豊富な資金を使って戦力を整えることが可能となります。

逆に人気のない球団は専門の放映チャンネルをつくることが出来ないため、MLB機構による収益分配制度からの収入が主な資金となります。

(詳しくはメジャーリーグ開幕!NPBとMLBの最も大きな違いとは? - あきさねゆうの荻窪サイクルヒットをご覧ください)

つまり、年俸20億円とかでも成立してしまうほど、アメリカのスポーツ経済は活発となっていることが一番の要因です。

アメリカ・カナダ・中南米地域の国々がアメリカのスポーツ経済圏です。日本の何倍もの市場ですから、日本で年俸10億、20億という選手が誕生することは難しいと思います。

ロースターのシステム、年俸が高騰しやすいことが移籍を活発化させている

最短6年でFA権を取得して、10億20億と平気で年俸が高騰していくのがメジャー流です。

超主力選手には4〜5年目くらいで年俸20億円の大型契約を結ぶこともあって、とにかく年俸の高騰に歯止めがかかっていないことが全体の流れです。

お金に余裕のない球団は、何十億円もする選手を何人も抱えることは出来ません。

しかしながら、どんな主力選手でも7年目以降はFAとなって年俸が高騰することは避けられません。

そのため、FAとなる寸前にトレードで若手有望選手複数名を獲得するという移籍が多く発生します。

昨シーズンでは、シンシナティ・レッズのエースであったジョニー・クエト投手がシーズン終了後にFAとなる上、レッズはシーズン半ばでプレーオフ進出も厳しいような状況でした。またレッズは予算にそれほど余裕があるチームではなく、またジョーイ・ボトーというスター選手を抱えていることもあり、クエトを高額年俸で引き止めることはしないと見られていました。

そこで、プレーオフ進出・ワールドシリーズ制覇を目論むカンザスシティ・ロイヤルズに有望若手3名+金銭の見返りでトレードに出しました。

結果、クエトはロイヤルズワールドシリーズ制覇に貢献しました。

晴れてFAとなったオフには、ロイヤルズも低予算チームでクエトを引き止めるだけの資金力はないため、クエトはサンフランシスコ・ジャイアンツに6年1.3億ドルで移籍しました。

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↑トルネード気味のフォームから、ドレッドヘアーをなびかせて投げ込むジョニー・クエト

余談ですが、シーズン中に移籍した選手はクオリファイング・オファー*9を提示出来ないため、獲得に際してドラフト指名権を失うリスクがないのが大きいです。

そのため、シーズン中に主力選手放出は物議を醸すことも多いですが、全体で見ると移籍活発化に大いに貢献していることになります。

MLBは徹底的に選手の立場に立った移籍システムが確立されている

マイナーオプションと、ルール・ファイブ・ドラフト*10のおかげで飼い殺しを防ぎ、年俸調停とFA取得期間の短さによって活躍した選手は高額年俸を取得しやすくなっています。

ところが、球団からすると高額年俸選手が期待どおりに活躍してくれない場合のリスクが大きくなって来ています。

こうなると、トレードにも出せない、マイナーにも落とせない、などなどでお荷物状態でチーム編成に支障をきたします。こういった選手のことを「死刑囚」と呼びます笑

日本だと、晩年の松中信彦や、今季の選手で言えば、巨人の阿部慎之助・内海哲也、オリックスの中島宏之、楽天のミコライオ、ソフトバンクの松坂大輔あたりは死刑囚となりそうです。

MLBでは、ロサンゼルス・エンゼルスが2013年オフに5年1億2500万ドルで獲得したジョシュ・ハミルトンが大不振に陥ってしまい、2015年シーズン中に古巣レンジャースに放出しました。

この際、契約金の残り3年総額8300万ドルのうち、エンゼルスが6300万ドルを負担し、ハミルトン本人は1400万ドルを破棄し、レンジャースは3年600万ドルを負担する契約に変更となりました。

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↑薬物依存、アルコール依存症を乗り越えたり乗り越えなかったりで激動の人生を送るジョシュ・ハミルトン終身名誉死刑囚*11

エンゼルスは所属していない選手に対して、毎年2100万ドルを3年間も支払わねばならないのです。2100万ドルは、エース級投手を獲得出来る大金です。

そのため最近は数年後に契約を見直すことが出来る「オプトアウト」条項付き契約が主流となっています。

冒頭で例に出したザック・グレインキーはこのオプトアウト条項を使ってダイヤモンドバックスに移籍しています。

結論、MLBのシステムはめちゃくちゃ複雑!

わたし自身もMLBののシステムを理解するまでに、非常に時間がかかりました笑

理解すると、とてもバランスの良いシステムであり、移籍が活発に行われることで毎年勢力図が塗り替えられて、勝敗予想や移籍情報を追う楽しみが増えます!

わたしがメジャーを好きな理由のもう一つの理由がここです。

ヨーロッパサッカーの移籍情報を追う楽しさにも似ているかもしれません。

オフシーズンに、どこどこのチームは誰々を取った方がいい、みたいな話が楽しすぎるのです。候補者もいっぱいいますしね。

というメジャーリーグの素晴らしさがちょっとでも伝われば幸いです!

ともに素敵な野球ライフを送りましょう!

この本を読めば、メジャーのお金の話はだいたい理解できます。

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MLBで大流行中のビッグデータベースボールについて解説しています。

*1:2015年シーズンは19勝3敗防御率1.66と圧倒的な成績を収めた

*2:2013年シーズンはオークランド・アスレチックスでセットアッパーとして71試合に登板し、23H・防御率2.54という活躍を見せていたが、2015年シーズンは大幅に成績が悪化していた

*3:高橋聡文(中日→阪神)、今江敏晃(ロッテ→楽天)、脇谷亮太(西武→巨人)、木村昇吾(広島→西武)の4件。MLBのシカゴ・カブスからソフトバンク・ホークスに移籍した和田毅を含めても5件。

*4:ソフトバンクの大場翔太を金銭トレードで中日へ、日ハムの藤岡好明を金銭トレードで横浜へ、巨人の大累進⇔日ハムの乾真大、の3件

*5:9月1日以降はセプテンバーコールアップと言って、アクティブロースターが40人まで拡大する。ベンチ入りメンバー36名なんてことも実際に起きます。

*6:ただし内海の場合、年俸が高いためどの球団も獲得に乗り出さない可能性あり。

*7:1年で172日間以上。この辺は日本と同じ

*8:総額は北米プロスポーツ史上最高額

*9:メジャーリーグ全体の上位125選手の平均年俸(昨シーズンは1580万ドル)と同額の1年契約を提示すること。拒否した選手はFAとなるが、該当選手を獲得した球団は移籍元球団にドラフト上位指名権を譲渡せねばならない。

*10:詳しくはメジャーリーグ開幕!NPBとMLBの最も大きな違いとは? - あきさねゆうの荻窪サイクルヒットにて解説しています

*11:個人的には好きな選手ですよ