『名選手は名監督にあらず』という言葉を、よく聞きます。
日本プロ野球においては、それだけ名選手が監督に就任するケースが多いということでしょう。
ひるがえって、アメリカではどうでしょうか?
アメリカ野球殿堂入りクラスの選手が、監督に就任しているケースはあまり聞かないように思えます。
むしろトミー・ラソーダ*1のように、監督として結果をつくり殿堂入りするケースがあるくらいです。
2016年シーズン、メジャーリーグの監督を務める30名は、現役時代にどのような成績を残していたのかまとめて見ました!
量が多いので、今回は『ア・リーグ編』をお送りします。
ナ・リーグ編はこちらです。
名選手は名監督にあらず?メジャーリーグ監督の現役時代の成績を調べたみた〜ナ・リーグ編〜 - あきさねゆうの荻窪サイクルヒット
メジャーリーグ監督の現役時代の成績〜ア・リーグ編〜
ボルティモア・オリオールズ監督、バック・ショーウォルター
左投左打、一塁・外野
1977年ドラフト5巡目でニューヨーク・ヤンキースから指名
メジャー出場なし
1983年に引退
1992年ニューヨーク・ヤンキース監督に就任
1994年ヤンキースにて地区1位、2014年オリオールズ地区優勝、最優秀監督賞3回、プレーオフ進出4回
弱小球団のチーム力底上げに定評のある監督です。
ヤンキースでは後の黄金時代の礎をつくり、ダイヤモンドバックス・レンジャースでは、ショーウォルターの後を継いだ監督が、いずれもワールドシリーズに進出しています。
自身は未だにワールドシリーズに進出した経験はありませんが、3度の最優秀監督賞に輝いていることから、紛れもない名監督でしょう。
最優秀監督賞は、監督版のMVPであり、非常に名誉あるタイトルです。
しかし、現役時代はメジャー出場はありませんでした。
現役引退後はヤンキース傘下のマイナー監督を5年務め、ヤンキースのコーチを2年務めた後、監督に就任しました。
ボストン・レッドソックス監督、ジョン・ファレル
右投右打、投手
1984年ドラフト2巡目(全体32位)でクリーブランド・インディアンスから指名
キャリアハイ:1988年31登板14勝10敗210.1回 防御率4.24
通算成績:116登板36勝46敗698.2回 防御率4.56
1996年に引退
2011年トロント・ブルージェイズ監督に就任
2013年レッドソックスにてワールドシリーズ制覇
引退後、インディアンスの育成選手部長として多田野数人を獲得したり、レッドソックスの投手コーチとして松坂大輔を指導したこともありました。
何より2013年シーズン、上原浩治をクローザーに抜擢してワールドシリーズを制覇した監督です。
ところが、この年以外はいずれも地区下位に低迷しており、評価の難しい監督であります。
今季で監督6年目でもあり、これからの活躍に期待するところです。
なお、現役時代は2巡目指名で期待されて入団しましたが、右肘の怪我もあって、通算36勝で引退しています。
ニューヨーク・ヤンキース監督、ジョー・ジラルディ
右投右打、捕手
1986年ドラフト5巡目でシカゴ・カブスから指名
キャリアハイ:1996年124試合、124安打、HR2、打点45、打率.294
通算成績:1277試合、1100安打、HR36、打点422、打率.267
2003年に引退
2006年フロリダ・マーリンズ監督に就任
2009年ヤンキースにてワールドシリーズ制覇
松井秀喜がワールドシリーズMVPに輝いたとき、ヤンキースを率いていた監督です。
あまりメジャー詳しくない方でも、ジラルディ監督の名前はよく聞いたのではないでしょうか。
監督デビューイヤーの2006年は、マーリンズ恒例のファイヤーセール*2後のどうしようもない戦力で78勝84敗という成績をあげ、最優秀監督賞を受賞しました。
ところが、オーナーと対立したため1年で解雇され、この年限りで勇退したジョー・トーリの後を継いでヤンキースの監督に就任しました。
現役時代は1996〜1999年にヤンキースに所属し、3度のワールドシリーズ制覇しています。
捕手として毎年一定の出場があった選手だったので、日本で言えば梨田昌孝のようなポジションでしょうか。
タンパベイ・レイズ監督、ケビン・キャッシュ
右投右打、捕手
1999年アマチュアFAとしてトロント・ブルージェイズと契約
キャリアハイ:2004年60試合、35安打、HR4、打点21、打率.193
通算成績:246試合、117安打、HR12、打点58、打率.183
2012年に引退
2015年タンパベイ・レイズ監督に就任
就任1年目となる昨シーズンは80勝82敗で地区4位という成績でした。
まだ38歳と非常に若い監督です。
現役時代は、ほとんど控え捕手として6球団を渡り歩いたジャーニーマンです。
トロント・ブルージェイズ監督、ジョン・ギボンズ
右投右打、捕手
1980年ドラフト1巡目でニューヨーク・メッツから指名
キャリアハイ:1986年8試合、9安打、HR1、打点1、打率.474
通算成績:18試合、11安打、HR1、打点2、打率.220
1990年に引退
1995年シーズンよりルーキーリーグにて監督デビュー、2004年シーズンにトロント・ブルージェイズ監督に就任
2015年地区1位
ルーキーリーグ→シングルA→AA→AAA→メジャーと、段階的に監督を経験してきた叩き上げの監督です。
2004〜2008、2013から、いずれもブルージェイズの監督を務め、2015年シーズンは地区1位に輝き、初のプレーオフを経験しました。残念ながらALCS*3敗退となりました。
現役時代も1巡目で指名されましたが、メジャーでの実働2年と、さしたる成績は残していません。
そういう人でも、地道にルーキーリーグから実績を積んで行けば、メジャーの監督になれるのがアメリカです。
シカゴ・ホワイトソックス監督、ロビン・ベンチュラ
右投左打、三塁手
1988年ドラフト1巡目(全体10位)でシカゴ・ホワイトソックスから指名
キャリアハイ:1999年161試合、177安打、HR32、打点120、打率.301
通算成績:2079試合、1885安打、HR294、打点1182、打率.267
2004年に引退
2012年シーズンよりホワイトソックスにて監督デビュー
現役時代はドラフト1巡目指名で入団し、強打の三塁手として活躍しました。2000本安打は達成出来ませんでしたが、名選手だったと言える成績でしょう。
コーチ経験がないまま、2012年よりホワイトソックスの監督に就任しました。
1年目の2012年シーズンこそ、85勝77敗で地区2位でしたが、2013年以降はいずれも地区下位に沈んでいます。
クリーブランド・インディアンス監督、テリー・フランコーナ
左投左打、外野手・一塁手
1980年ドラフト1巡目でモントリオール・エクスポズ(現ワシントン・ナショナルズ)から指名
キャリアハイ:1984年58試合、74安打、HR1、打点18、打率.346
通算成績:708試合、474安打、HR16、打点143、打率.274
1990年に引退
1992年よりマイナーリーグ監督デビュー、1997年シーズンよりフィラデルフィア・フィリーズ監督に就任
2004年・2007年レッドソックスにてワールドシリーズ制覇
レッドソックスを二度のWS制覇に導き、2000年代のレッドソックスの栄華を築いた監督であり、紛れも無い名監督でしょう。
2013年にはインディアンス監督として、最優秀監督賞を獲得しています。
現役時代はドラフト1巡目で入団も期待通りの活躍とは言えず、主に代打やプラトーン要員としての出場が続いていたようです。
フランコーナ監督も、マイナー監督からの叩き上げ組です。
デトロイト・タイガース監督、ブラッド・オースマス
右投右打、捕手
1987年ドラフト48巡目でニューヨーク・ヤンキースから指名
キャリアハイ:1999年127試合、126安打、HR9、打点54、打率.275
通算成績:1971試合、1579安打、HR80、打点607、打率.251
2010年に引退
2012年WBCイスラエル代表監督に就任、2014年シーズンよりタイガース監督に就任
2014年地区1位
現役時代はドラフト48巡目と相当下位で指名されながらも、ゴールドグラブ3度受賞した堅守の捕手として活躍しました。
就任1年目は地区1位、2年目は地区最下位と、激動の2年を送っています。
タイガースがチームとして過渡期を迎えており、衰えかけているベテランをうまく起用しながら、どこまで戦えるか注目です。
カンザスシティ・ロイヤルズ監督、ネッド・ヨスト
右投右打、捕手
1974年二次ドラフトでニューヨーク・メッツから1巡目指名
キャリアハイ:1984年80試合、44安打、HR6、打点25、打率.224
通算成績:219試合、128安打、HR16、打点64、打率.212
1985年に引退
2003年シーズンからミルウォーキー・ブルワーズの監督に就任
2014年ロイヤルズにてWS進出、2015年WS制覇
現役時代は控え捕手として、実働6年のメジャー生活を送りました。
引退後はアトランタ・ブレーブスで長らくコーチを務めていました。
監督としては、弱小チームを率いていたこともあり、長らくこれと言った戦績を残せませんでしたが、ここ2年はワールドシリーズに連続出場し、昨年は世界一となりました。
61歳にして初めて掴んだ頂点。こういうアメリカンドリームもあるんだなと思いました。
ミネソタ・ツインズ監督、ポール・モリター
右投右打、指名打者・三塁手・二塁手
1977年ドラフト1巡目(全体3位)でミルウォーキー・ブルワーズから指名
キャリアハイ:1993年160試合、211安打、HR22、打点111、打率.332
通算成績:2683試合、3319安打、HR234、打点1307、打率.306、盗塁504
1998年に引退
2015年シーズンよりツインズ監督に就任
殿堂入りしている超名選手です!
通算3000安打、HR200、500盗塁以上を達成した選手はモリターの他にリッキー・ヘンダーソンしかいません。
オールスター7回出場、シルバースラッガー賞4度獲得、ワールドシリーズMVP1回、引退後は資格初年度にアメリカ野球殿堂入りしています。
2004年にはシアトル・マリナーズの打撃コーチに就任しますが、チームが得点リーグ最下位となり責任を取らされ解任されます。
2015年シーズンから低迷するツインズの再建をミネソタ出身のチームの英雄であるモリターに託します。
就任1年目は下馬評を覆す快進撃を続け、ワイルドカード獲得まで3ゲーム差の地区2位となる83勝を挙げました。
ところが今シーズンはまだ序盤にもかかわらず、ぶっちぎりの最下位を走っていて、先行きがかなり不安な状況です。
ヒューストン・アストロズ監督、A.J.ヒンチ
右投右打、捕手
1996年ドラフト3巡目(全体75位)でオークランド・アスレチックスから指名
キャリアハイ:1998年120試合、78安打、HR9、打点35、打率.231
通算成績:350試合、209安打、HR32、打点112、打率.219
2005年に引退
2006年シーズン途中にアリゾナ・ダイヤモンドバックスの監督に就任
2015年アストロズにてワイルドカード獲得、ALDS敗退
メジャー史上2番目の若さ(34歳275日)でダイヤモンドバックスの監督に就任しました。
しかし、バックスでは成績が伸び悩み、翌シーズン途中に解任されます。
パドレスの球団副社長・GM補佐を務め、2015年シーズンよりアストロズ監督に就任し、飛躍のシーズンを送ります。
現役時代は1996年アトランタ五輪銅メダル獲得に貢献し、メジャーでは1年目こそレギュラー捕手の座を射止めましたが、後のシーズンは控え捕手でした。
ロサンゼルス・エンゼルス監督、マイク・ソーシア
右投左打、捕手
1976年ドラフト1巡目(全体19位)でロサンゼルス・ドジャースから指名
キャリアハイ:1985年141試合、127安打、HR7、打点53、打率.296
通算成績:1441試合、1131安打、HR68、打点446、打率.259
1992年に引退
2000年よりエンゼルスの監督に就任
2002年ワールドシリーズ制覇
今季で17年目の長期政権となっています。
16年間でプレーオフ進出7回、ワールドシリーズ1回制覇と、好成績を保っていることも素晴らしいです。
メジャーでは、比較的長期政権となることが多いですが、ここまで長いのは珍しいです。
現役時代も長年レギュラー捕手を務め、1441試合出場は立派と言える成績でしょう。
オークランド・アスレチックス監督、ボブ・メルビン
右投右打、捕手
1981年ドラフト1巡目でデトロイト・タイガースから指名
キャリアハイ:1990年90試合、73安打、HR5、打点37、打率.243
通算成績:692試合、456安打、HR35、打点212、打率.233
1994年に引退
2003年シアトル・マリナーズの監督に就任
2007年アリゾナ・ダイヤモンドバックスで地区優勝、2012〜13年とオークランド・アスレチックスで地区優勝、最優秀監督賞2度受賞
2012年に地区優勝しました。
この前年オフにアスレチックスはファイヤーセールとも言える、戦力の大放出を決行します。
エース2人(ジオ・ゴンザレス、トレバー・ケーヒル)、中継ぎエース(クレイグ・ブレスロウ)、守護神(アンドリュー・ベイリー)、主軸打者4名(デビッド・デヘスース、ジョシュ・ウィリンガム、ライアン・スウィーニー、松井秀喜)を放出、さらに2012年シーズン中には正捕手(カート・スズキ)まで放出します。
代わりにトレードで有望若手選手たちをたくさん獲得しました。
2012年シーズンはレンジャースがぶっちぎっていて、アスレチックスは最大13ゲーム差をつけられていましたが、シーズン後半になるに連れ、有望若手選手たちが台頭して、あれよあれよと首位に追いつき、とうとう優勝してしまいました。
これだけの大胆な選手放出とトレードで有望若手選手獲得を決行したビリー・ビーンGMも凄いのですが、与えられた選手をまとめあげたメルビンの手腕も見事と言えましょう。
なお、現役時代は控え捕手として大半のシーズンを過ごした模様です。
シアトル・マリナーズ監督、スコット・サーバイス
右投右打、捕手
1988年ドラフト3巡目(全体64位)でヒューストン・アストロズから指名
キャリアハイ:1996年129試合、118安打、HR11、打点63、打率.265
通算成績:820試合、611安打、HR63、打点319、打率.245
2001年に引退
2016年シアトル・マリナーズの監督に就任
今年の新人監督です。
現役引退後は、レンジャース、エンゼルスのフロントで仕事をしていたようです。
エンゼルスのGMを務めていたディポートが、今季よりマリナーズのGMに就任したため、ディポートの下で働いていたサーバイスに白羽の矢が立ったのです。
なお、現役時代は控え捕手として(以下略
テキサス・レンジャース監督、ジェフ・バニスター
右投右打、捕手
1986年ドラフト25巡目でピッツバーグ・パイレーツから指名
キャリアハイ:1991年1試合、1安打、HR0、打点0、打率1.000
通算成績:1試合、1安打、HR0、打点0、打率1.000
1993年に引退
2015年レンジャース監督に就任
2015年地区優勝、最優秀監督賞受賞
昨シーズンのア・リーグ西地区優勝監督です。
昨季のレンジャースは前評判は低かったです。特に投手陣が、エースのダルビッシュがトミージョン手術で離脱、ハリソン、ホランドらのエース格も怪我で、コマ不足でした。
うまく投手のやりくりをしながら、強力打線で勝ち抜いたのが昨季の戦い方で見事でした。
なお、現役時代は控え捕手(以下略
まとめ
ア・リーグでは、殿堂入りクラスの選手はそもそも1名しか監督を務めていませんでした。
また、15人中11名が捕手出身監督と、ここまで捕手出身に寄るとは思いませんでした!しかも、ほとんど控え捕手ですよ!
日本で言えば、巨人・實松一成、カープ・白濱裕太、西武・上本達之あたりが監督になるようなイメージですよ。あまりイメージできないですよね。
そして、メジャーの監督になる人は、全員が全員マイナーからの叩き上げというわけではないことも分かりました。
現役時代のリーダーシップ、周りの選手からのリスペクト具合など、総合的に見て監督就任を打診しているのでしょうかね。
今回は、ア・リーグ編でしたので、次回はナ・リーグ編をお送りしたいと思います。
ヤンキースの黄金時代を築いたジョー・トーリも元捕手でした。
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