メジャーリーグのドラフト指名会議が終了しました。
MLBのドラフトでは全30球団が、最大40位まで選手を指名することが出来ます。
つまり最大1200名が指名されることとなり、到底1日では終わらないので、全3日間で実施されます。
これだけの人数を指名する大きな理由は、マイナーリーグの組織が巨大であるためです。メジャーを1軍とするとマイナーリーグは8軍まであります!
一体なぜ、これほど巨大な組織をつくる必要があるのでしょうか?
アメリカには日本の社会人野球のシステムがない
高校・大学を卒業して野球を続けるためには、ドラフトで指名される必要があるということです。もしくは、独立リーグでプレーするかです。
そのため、高校・大学卒業時点では戦力になりそうになくても、素材の良い選手は確保しておく必要が出てきます。
メジャーリーグのドラフトはほとんどがその観点から指名され、マイナーリーグでプレーすることなく、いきなりメジャーの舞台でプレーするような選手は数年に1人いるかどうかのレベルです。
デレク・ジーターでさえ、高卒で入団後、3年間はマイナーリーグで経験を積み、4年目のシーズン途中にメジャーリーグデビューを果たしています。
というように、将来有望な素材をたくさん確保するために、マイナーリーグは8軍まであるのです。
マイナーリーグは、
- ルーキー(Rk)
- アドバンスド・ルーキー(Rk)*1
- ショートシーズンA(A-)
- クラスA(A)
- アドバンスドA(A+)
- ダブルA(2A)
- トリプルA(3A)
という7階層で構造され、これに
- メジャーリーグ(MLB)
が最上位に位置しています。
メジャーリーグを1軍とすると、最下層のルーキー級は8軍に該当します。
では、ドラフトで指名された全選手が8軍からスタートするかというと、そうではありません。
例えば、2011年ドラフトで全体1位でピッツバーグ・パイレーツに指名されたゲリット・コールの場合、
2011年秋の教育リーグ(各球団から選手を出し合って、経験を積む目的で行われるリーグ戦)で5試合に登板し、翌2012年シーズンはA+級からスタートしています。
A+〜2A〜3Aと順当に昇格し、2013年シーズンにはメジャーリーグデビューし、パイレーツのエースとして大活躍中です。
↑3Aインディアンス時代のゲリット・コール
また、稀に2A級から、いきなりメジャーリーグに昇格するような選手もいます。
このあたりのキャリアパスは選手の実力・期待度次第と言ったところです。
マイナーリーグは独立採算制度をとっている
日本の1軍・2軍・3軍システムと決定的に違う点は、マイナーリーグのほとんどチームは、一つの球団として独立して経営されていることです。
メジャーリーグの球団とは、提携関係を結んで、昇格・降格など選手の入れ替えを行っています。ちなみに、メジャー球団との提携関係のことをアフィリエイトと言いますw
独自の採算性を持っているため、マイナーリーグの球団単体で黒字となるように、売上を上げる営業努力や、経費を抑える工夫がなされています。
例として、パイレーツ傘下の3A級のチームであるインディアナポリス・インディアンズについて調べてみました。
まず、このような立派なオフィシャルサイトが存在します。
チケットもオンラインから購入することが可能です。チケットは1枚9〜16ドルくらいです。
インディアナポリス・インディアンズの本拠地の収容人数は12000人なので、仮に1枚あたり平均12ドルで、半分の6000人入ったとすると、1日で7万2000ドル(約800万円)の売上を上げることが出来ます。
3A級は年間に144試合行うので、半分がホーム開催とするとチケット収入だけで5億7600万円ほどの収入を生み出します。
これに加えて、テレビ放映権*2やグッズ売上が加わりますし、毎回6000人入らなかったとしても、億単位の売上を生んでいて十分採算性が取れそうなイメージはつくと思います。
ちなみにグッズの種類はめちゃくちゃ豊富です!
http://indyindians.milbstore.com/store.cfm?store_id=26
人気選手はレプリカユニフォームもつくられています。ジョン・ボウカーのユニが100ドルで売られていて笑いましたw*3
続いてパイレーツ傘下の2A級のアルトゥーナ・カーブです。
こちらも立派なオフィシャルサイト(Altoona Curve | MiLB.com)があります。
チケットは1枚3.5〜14ドルで買えます。やすい!
グッズもレプリカユニフォームはありませんが、キャップやTシャツなどの種類が豊富です。
というように、パイレーツの場合アドバンスド・ルーキー級にあたる「ブリストル・パイレーツ」まで、公式ホームページ・チケット販売・グッズ販売が行われていることを確認しました。各球団で独自の営業努力が成されていることがお分かりいただけるかと思います。
しかしながら、ルーキー級の「ガルフ・コーストリーグ・パイレーツ」については、公式ホームページはありますが、チケット販売・グッズ販売のページは見つかりませんでした。
ルーキー級のみは、何らかの形でメジャーないし上位のマイナー球団から何らかの経済的な支援の元、運営されているかもしれません。*4
マイナーリーグでのプレーは過酷で、選手たちはメジャー昇格を夢見て辛抱強くプレーする
先ほどの3A級インディアナポリス・インディアンズの例では、独自の採算性を取っていると言っても何十億・何百億と売上げているわけではないなさそうです。
必要最小限の運営費で、球団を経営していくためには選手の経費を抑える必要がどうしても出てきます。
こちらの記事によると、ルーキー級の選手の給料は月収850ドルで、3A級では2150ドルだそうです。
給料は?食事は?マイナーリーグQ&A― スポニチ Sponichi Annex 野球
遠征の時は、バスですし、食事もほとんどジャンクフードです。このあたりのことは川崎宗則の著書である『逆境を笑え 野球小僧の壁に立ち向かう方法』にも書いてありました。
1000キロ以上の距離をバスで1日で移動して、すぐ試合なんてこともザラです。
オフにバイトしないと生活出来ない選手もいるなんて、なかなかの悲惨な状況です。
ドラフトで上位指名された選手は多額の契約金((2011年ドラフト全体1位のゲリット・コールの契約金は800万ドル(約9億円)))で生活することが出来ますが、下位指名選手はほとんど契約金もらえません。
それでもメジャー昇格の夢を見て、選手たちは懸命にプレーします。
ちなみに、メジャーリーグに昇格して43日経過すると、年間3万4000ドル(約400万円)をもらえるMLB年金の受給資格が得られます。1日でもメジャーに昇格すると終身医療保険がもらえます。
メジャーで活躍する名誉もありますが、こういった経済的なアドバンテージもあるため、メジャー昇格を目指して選手たちは必死なのです。
残念ながら、メジャーに昇格することなく引退する選手も大勢います。
中には、コーチ・監督としてマイナーチームに残って、後にメジャーリーグ監督として大成することもあります。
参考記事:無名だったプロ野球選手がメジャーリーグ監督になる軌跡を調べてみた。- あきさねゆうの荻窪サイクルヒット
または、日本や韓国をはじめとする海外のチームに渡り、実績を残してからメジャーリーグ昇格を目指す選手もいます。
元ヤクルトで、今はテキサス・レンジャースに所属するトニー・バーネットはまさにそうです。今シーズン、メジャーデビューを果たし、中継ぎ投手として活躍しています。
今年のドラフトで指名された1200名弱の選手のうち、メジャーリーグに昇格出来る選手たちは一握りです。
そうなると、2A・3Aあたりで活躍することも凄いことに思えて来ます。
マイナーリーグの巨大組織の構造を知ることで、メジャーに初昇格した選手や日本にやってくる外国人選手に対する印象も変わると思います。
全然使えねえ!とか言わずに、その選手の背景を調べてみるのも面白いかもですね!
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メジャーリーグでは移籍が非常に活発です。3A間・2A間での移籍も多いです。
あっさりと引退するのは、MLB年金の仕組みが素晴らしいことも起因していると思います。年金の話は、また後日記事にします。