最後の1級山岳ペイルスールド峠を登り切った瞬間に、狙いすましたアタックを決めたクリス・フルーム(チームスカイ)。
圧倒的なスピードで集団を振りきって、ステージ優勝を飾り、マイヨ・ジョーヌを獲得しました。
なお、本ステージではクリス・フルーム(チームスカイ)が観客へエルボーを食らわしてしまい、200スイスフランの罰金を科されるという出来事がありました。
フルームに暴力の意図はなく、観客の持っていた旗が自分の自転車に巻き込まれそうになって危険を回避するために振り払おうとしたところ、顔にクリーンヒットしてしまったことが真相のようです。
今日の逃げは3名、メイン集団からマイヨ・ジョーヌが遅れる
中間スプリントはマイケル・マシューズ(オリカ・バイクエクスチェンジ)が先頭通過しました。
ある程度登りも始まっている段階だったため、他の有力選手の中ではペーター・サガン(ティンコフ)が2ptsを獲得したのみでした。
本ステージでは、超級山岳1つ、1級山岳2つ、2級山岳1つあり、全て先頭通過すると50ptsを荒稼ぎすることが可能となっています。
逃げ集団は3名です。昨日バッド・デイ*1だったティボー・ピノ(FDJ)、昨日の逃げに選手を送らなかったティンコフからラファル・マイカ(ティンコフ)、昨日も逃げいていたトニ・マルティン(エティックス・クイックステップ)の3名が先行しています。
メイン集団に2分ほどの差をつけて、超級山岳トゥールマレー峠を登って行きます。
この登りは長さ19km、平均勾配7.4%です。標高700m地点から一気に山頂の標高2115mまで登るという非常に厳しい山岳です。
メイン集団からは、昨日敢闘賞を獲得したヴィンチェンツォ・ニーバリ(アスタナ)、ジュリアン・アラフィリップ(エティックス・クイックステップ)、そしてマイヨ・ジョーヌを着るフレフ・ヴァンアーヴェルマート(BMCレーシング)が遅れています。
超級山岳トゥールマレー峠はピノが先頭通過
山頂付近で、トニ・マルティンを置き去りにして、ピノとマイカがアタックします。
ピノがずっと先行する形で、山頂を先頭通過しました。ピノが25pts、マイカが20ptsの山岳ポイントを獲得しました。
置き去りにされたトニ・マルティンは、トゥールマレーの下り坂でピノとマイカに追いつきます。
TTスペシャリストのトニ・マルティンは、下り坂での牽引役として逃げ集団に貢献することが出来るので、出来れば3人で逃げたいはずです。
一方、メイン集団は逃げ集団から2分ほど遅れで通過します。
ロメン・シカール(ディレクトエネルジー)がメイン集団の先頭で通過した以外、大きな山岳賞争いは起きなかったようで、アシスト選手が牽き続けながら通過したようです。有力選手の中ではアレハンドロ・バルベルデ(モビスター)10pts、クリス・フルーム(チームスカイ)4pts獲得していました。
ニーバリ、アラフィリップのグループは先頭から5分ちょっと、メイン集団から3分ちょっとの遅れを持って通過しました。
#MaillotJaune was 3.4km/h slower than the leaders over the final 9kms climbing the Tourmalet.#TDFdata #TDF2016 pic.twitter.com/lZ4drkZnyw
— letourdata (@letourdata) 2016年7月9日
ちなみに、逃げ集団とメイン集団はおよそ時速18キロ前後で登っていますが、ヴァンアーヴェルマートは時速14〜15キロあたりで登っていたようです。
ヴァンアーヴェルマートは下り坂を利用して、ニーバリ、アラフィリップのグループに追いつきましたが、メイン集団との差は広まるばかりです。
1級山岳ヴァル・ルロン・アゼ峠の登りで逃げ集団を吸収
逃げ集団は1分のアドバンテージを持って登り始めます。
ヴァンアーヴェルマートらのグループはメイン集団からすでに7分以上遅れています。
メイン集団ではスカイ自慢の山岳トレインが淡々とペースを刻み、逃げ集団とのタイム差を詰めて行きます。
山頂まで7kmくらいの地点で、逃げ集団を吸収しました。
捕まったピノは元気なく、スカイ率いるメイン集団からもすぐに遅れてしまいました。
↑淡々と登るフルームとキンタナ
マイカは元気よく集団に残って、アルベルト・コンタドール(ティンコフ)らチームメートのためにボトル運びをしている姿も見られました。
途中、スカイのアシストが沿道の観客からペットボトルに入った水をもらい、フルームに渡して、頭からかけているシーンが見えました。
フルームは残った水を、隣にいたモビスターの選手に渡して、その選手も水を頭からかけていました。
プロトンの中では、スカイとモビスターは案外仲良しなように見えますね。
対して、山頂付近ではマイカが山岳ポイントを取ろうと加速したところ、スカイのアシストとフルーム自身がこれを阻止しました。
結果的には、マイカは3位通過で6ptsを加算して、ピノを上回る31ptsとなりましたが、スカイはティンコフのことを快く思っていないようです。
このスカイの動きについて、解説の宮澤崇史さんは『昨日、ティンコフは全然集団牽引に協力しなくて、今日もスカイが仕事している中、何もしないティンコフが良いところだけ取っていこうとする姿勢が許せなかったのでは』との指摘をしていました。
スカイとモビスターのように仲良くしながら、余計な対立を防ぐことも、長丁場のツールを走り切る上では大切なことですね。
なお、今大会初のリタイア者が出てしまいました。
ミカエル・モロコフ(カチューシャ)は、第1ステージのゴールスプリントで大落車してしまった影響で、身体のどこかを痛めながらの走りだったと思われます。
連日、先頭から20分以上遅れるような走りで、アシストもままならない状況だったので、致し方ないです。
1級山岳ペイルスールド峠で本格的な総合争い勃発
手前のヴァル・ルロン・アゼ峠からの下り坂で、ウィルコ・ケルデルマン(ロットNLユンボ)が落車しました。
Kelderman was going 47.3km/h when he crashed on the descent from Col de Val Louron-Azet, on a -8% grad. #TDFdata https://t.co/YkL0wT0095
— letourdata (@letourdata) 2016年7月9日
ちょうどコーナーで、時速47キロまで減速していたタイミングだったので、バイクはクラッシュしていましたが、本人は無事なようで、バイク交換後メイン集団に追いついています。
マイヨ・ブラン争いで、アダム・イェーツ(オリカ・バイクエクスチェンジ)から1秒遅れなので、ここでは遅れたくないところです。
1級山岳ペイルスールド峠への登りの時点で、各チームのアシストを含めた残っている人数は
・5人
チームスカイ
・3人
モビスター、BMCレーシング、アスタナ、AG2R、ティンコフ
・2人
トレック・セガフレード
という状況です。
ダン・マーティン(エティックス・クイックステップ)や、ワレン・バルギル(ジャイアント・アルペシン)は一人だけです。
スカイ勢はほぼ先頭固定で牽引しているにも関わらず、5人も残しているチーム力が凄まじいです。
そして残り18km地点で、セルジオ・エナオモントーヤ(チームスカイ)が一気に加速して仕掛けます!
このペースアップによって、バルギルが遅れてしまいます。
さらに、ダン・マーティンのアタック、フルーム自身のアタック、ロメン・バルデ(AG2R)のアタック、キンタナのアタックと、断続的にアタックが続きます。
↑アタックを仕掛けるダン・マーティン
コンタドール、ケルデルマン、ピエール・ロラン(キャノンデール)が、この動きについていけず遅れをとってしまいます。
山頂は、フルームが先頭で通過しました。
ああ、山岳を登り切ったかと、キンタナは頂上でボトルを受け取り、集団が一息つくタイミングで、フルームがアタックを仕掛けます!
ゴールに向かって一気にダウンヒル
後ろを一切振り返ることなく、事前からアタックすることを決めていたかのように勢い良くフルームがアタックします!
キンタナは慌ててボトルを捨てて、他の選手たちと一緒にフルームを追いかけます。
フルームはクラウチングスタイルのまま、ペダルを回して走るという、ちょっと真似できない走りで急斜面をガンガン攻めて下って行きます!
↑この姿勢でペダルを漕いで、時速90キロとか出す。信じられない…。
追走集団ではキンタナのアシストであるバルベルデが先頭で追いますが、フルームのアシストであるエナオモントーヤがバルベルデの後ろに入って、追走集団のローテーション、協調体制を築きにくくするというナイスアシストを見せます。
このためか、追走集団ではローテーションが全く回らず、フルームとのタイム差は開くばかりです。
気付けば10秒タイム差をつくり、あれよあれよという間に20秒以上のタイム差をつくって独走していきます。
ゴールまで残り1km地点の平坦区間に入って、やっとファビオ・アルが加速します。
追走集団が猛烈に追い上げますが、フルームが築いたリードは小さくありませんでした。
フルームが今大会初勝利と共に、マイヨ・ジョーヌを獲得します!
13秒遅れで2位はダン・マーティン、3位はホアキン・ロドリゲス(カチューシャ)という着順でした。
スカイは完璧すぎる作戦を立てて、有能なアシスト陣と強すぎるフルームによる会心の勝利です。
下り坂で猛烈なダウンヒルテクニックを見せ、誰もが警戒するほどの爆発的な登坂力を持ち、総合上位勢の中では最強とも言えるTT力を持っていて、3拍子揃っているだけでも、手に負えない存在なのに、
最後の1級山岳ペイルスールド峠登りで、他のどのチームよりもアシストの人数を残していて、チーム力の強さも圧倒的です。
フルームのマイヨ・ジョーヌ連覇に死角なしなのではないか、と思わずにはいられない一日でした。
フルームがマイヨ・ジョーヌ、マイカがマイヨ・アポワルージュを獲得
いよいよマイヨ・ジョーヌの大本命であるフルームがイエロージャージに袖を通します。
ここまでのステージでも、本来はマイヨ・ジョーヌ着用チームがやるべき集団牽引などの仕事を、ほとんどスカイがやっていました。
ジャージを取っても、翌日以降やることは変わらないでしょう。
マイカがマイヨ・アポワルージュを獲得しました。
今日も余力を残しながら、メイン集団から下がっていたように見えたので、明日のステージでも逃げてくるのではないかと思います。
マイヨ・ブランはアダム・イェーツがキープしました。
前日は、フラムルージュ落下事件の影響でレース終了後の救済措置によってタイムが繰り上げられたため、表彰式に登るのはこれが初めてです。
アゴの怪我が痛々しいですが、走りへの影響はなさそうで何よりです。
敢闘賞はピノです。
昨日は総合から遅れてしまい、山岳賞目指した今日の逃げでは1ポイント差で獲得出来ず、結局さらに総合タイムも遅れてしまうという散々な目にあっています。
どこか虚ろ気な表情なのは察してあげてください。
まさにクリノート*2の被害者です。
各リザルト
第8ステージ結果
1位、クリス・フルーム(チームスカイ) +0:00
2位、ダン・マーティン(エティックス・クイックステップ) +0:13
3位、ホアキン・ロドリゲス(カチューシャ) +0:13
遅れた総合勢は、
16位、ワレン・バルギル(ジャイアント・アルペシン) +1:41
17位、アルベルト・コンタドール(ティンコフ) +1:41
24位、ピエール・ロラン(キャノンデール・ドラパック) +1:45
26位、ウィルコ・ケルデルマン(ロットNLユンボ) +1:45
51位、ティボー・ピノ(FDJ) +16:19
69位、ジュリアン・アラフィリップ(エティックス・クイックステップ) +25:54
80位、ヴィンチェンツォ・ニーバリ(アスタナ) +25:54
86位、フレフ・ヴァンアーヴェルマート(BMCレーシング) +25:54
という結果です。
総合タイム
1位、クリス・フルーム(チームスカイ)
2位、アダム・イェーツ(オリカ・バイクエクスチェンジ) +0:16
3位、ホアキン・ロドリゲス(カチューシャ) +0:16
4位、ダン・マーティン(エティックス・クイックステップ) +0:17
5位、アレハンドロ・バルベルデ(モビスター) +0:19
6位、ナイロ・キンタナ(モビスター) +0:23
7位、ファビオ・アル(アスタナ) +0:23
8位、ティージェイ・ヴァンガーデレン(BMCレーシング) +0:23
9位、ロメン・バルデ(AG2R) +0:23
10位、バウケ・モレマ(トレック・セガフレード) +0:23
14位、ワレン・バルギル(ジャイアント・アルペシン) +1:51
15位、ピエール・ロラン(キャノンデール) +1:55
16位、ウィルコ・ケルデルマン(ロットNLユンボ) +1:55
18位、リッチー・ポート(BMCレーシング) +2:08
20位、アルベルト・コンタドール(ティンコフ) +3:12
第9ステージはツール前半戦最大の山場・アンドラアルカリスへの山頂フィニッシュ!
超級山岳アンドラアルカリスへの山頂フィニッシュに加え、1級山岳3つ、2級山岳1つという、前半戦の最大の山場です。
翌日は休息日であるため、総合争いに向けた激しいバトルが繰り広げられることでしょう。
ゴール地点は標高2240mです。
わたしの全く当たらないステージ優勝予想もしてみます笑
第9ステージは、ナイロ・キンタナが勝ちます!
フルームの圧倒的なダウンヒルを見せられたキンタナは、今後もいくつかあるダウンヒルゴールのステージでタイムを挽回することは厳しいと思ったはずです。
ならば、昨年のツール第20ステージ、ラルプデュエズの登りでフルームを陥落寸前まで追い込んだ、あの走りで山岳で勝負してくるに違いありません!
明日の第9ステージは、スカパー・J Sportsで18:35から中継開始予定です。レーススタートから生放送してくれるそうです。実況はサッシャさん、解説は狩野智也さん、土井雪広さんです!
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*1:グランツールで必ず1日は訪れるという、どうにも身体の調子が悪い日のこと。バッド・デイを乗り切ることが出来るかどうかもグランツールを制すポイントとなる。
*2:前日のレースレポートを参照してください